平成21年の農地法改正によって、農地法3条3項が新設されました。これにより、農地等について使用貸借権や賃借権を設定することで従来よりも農地を借りやすくなりました。
農家の高齢化に伴う耕作放棄地の増加が懸念される中、法人や個人の農業への参入を容易にする狙いがあります。
3条3項の3つの要件
ただし、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
- 権利を取得しようとする者が、その取得後において、農地等を適正に利用していないと認められる場合に、使用貸借または賃貸借の解除をする旨の条件が書面において付されること(3項1号)
- 許可を取得しようとする者が、地域の農業における他の農業者との適切な役割分担の下に継続的かつ安定的に農業経営を行うと見込まれること(3項2号)
- 権利を取得しようとする者が法人である場合にあっては、その法人の業務を執行する役員のうち、1人以上の者がその法人の行う耕作等の事業に常時従事すると認められること(3項3号)
上記の3つの要件を満たすことができれば、農地法3条2項の7つの要件のうち、2号(農業生産法人以外の法人は第3条許可を受けることができない)と4号(農作業に150日以上従事する)が適用されなくなります。
したがって、農業生産法人以外の法人(株式会社や合同会社など)が農業に参入しやすくなりました。
農地法3条2項についてはこちらをご覧ください。
1.契約を解除する旨の条件が書面で締結されていること(3項1号)
農地等の権利を取得した後、その農地等を適正に利用していないと認められる場合、賃貸借契約を解除する旨の条件が書面による契約においてな付されていることが必要です。
「書面による契約において付されていること」とは、農地等を借りた者がその農地等を適正に利用していないと認められる場合に、賃貸人が賃貸借契約(使用貸借契約)を解除できる旨を書面に明記されていることを要するという意味です。
そもそも、民法上、契約は口約束でも有効です。しかし、農地に関しては特別に書面化を要求しています。
3項1号の「農地を適正に利用していない」とは、例えば賃借人が無断転用を行ったような場合や耕作放棄地にしてしまった場合のことです。
契約の即時解除ができる
一般的に賃貸借契約の場合、賃借人が賃料の不払いなどの契約違反行為をした時は、賃貸借契約を解除することができますが、原則として解除の前に履行の催告(契約を守る催促)をしなければなりません。
しかし、あらかじめ書面により「解除をする旨の条件」を明確にしておくことで、即時に解除することができます。
これは、農地の不適正利用が発覚した時点で、すでに貸主と借主の信頼関係が崩壊したと考えることができるからです。
届出だけで解除できる
通常、農地等の賃貸借契約を解除する場合、事前に都道府県知事に許可を受ける必要があり、許可なく契約解除をしても無効となってしまいます。
しかし、3条3項の適用を受けて3条許可を受けた場合、賃借人が農地等を適正に利用していないという理由で解除される時は、解除の前に農業委員会に届出をすれば、都道府県知事の許可は不要とされています。
2.継続的・安定的な農業経営の見込みがあること(3項2号)
農地等の権利を取得しようとする者は、地域の農業における他の農業者との適切な役割分担の下に継続的かつ安定的に農業経営を行うと見込まれる者でなければなりません。
「適切な役割分担の下に」とは、例えば「農業の維持発展に関する話し合い活動への参加」、「農道・水路・ため池等の共同利用施設の取決めの遵守」、「獣害被害対策への協力」などのことです。
「継続的かつ安定的に農業経営を行う」とは、「機械や労働力の確保状況等からみて、農業経営を長期的に継続して行う見込みがあること」を言います。
3.法人は、役員のうち1人以上の者が耕作等の事業に常時従事すること
(3項3号)
法人が農地等の権利を取得しようとする場合、その業務執行役員のうち1人以上の者が、その法人の行う耕作等の事業に常時従事すると認められることが必要です。
「業務執行役員」とは、「会社法上の取締役のほか、理事、執行役、支店長等の役職であって、実質的に業務執行についての権限を有し、地域との調整役として責任を持って対応できる者」のことです。
「耕作等の事業に常時従事する」とは、農作業に限定されず、営農計画の作成・営業活動の立案など、いわゆるデスクワークも含まれます。
なお、3項3号は法人だけに適用されるもので、個人には適用されません。
利用状況の報告義務
農業委員会が3条3項の規定によって3条許可を受けた時は、権利の設定を受けた者は、農地等の利用状況の報告義務を負います。
これは、賃借人等に対し利用状況の報告を義務付けることによって、農地等の不適正利用の発生を未然に防止するためです。