農地法では第64条において、農地法違反者に対し罰則規定を設けています。罰則を設けることで国民に対し警告し、違反行為を未然に防ぐ効果が期待されています。
罰則には行政罰と行政処分があり、2重で処罰される可能性があります。
違反行為に対する行政罰
農地法では、次の行為をすると「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」が科せられます。これは行政罰と言われるものです。
- 許可を得ることなく農地の権利移転(譲渡)、権利設定(賃貸等)をした者。
許可を得ることなく農地を農地以外のものにした者(無断転用・違反転用) - 虚偽の申請によって許可を得た者
- 違反行為に対する行政処分に従わない者
法人に対する両罰規定
農地法67条では、法人または人に対する両罰規定が置かれています。両罰規定とは、法人等の役員(または従業員)が違反行為をした場合に、役員(または従業員)とともに法人等も罰する規定です。
この場合、人に対しては「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」が科せられ、これに加えて法人に対して「1億円以下の罰金」が科せられます。
例えば、「会社Aの役員Bが、法人の所有する農地を許可なく転用し、新しく工場を建てた」場合、会社Aには「1億円以下の罰金」が科せられ、役員Bには「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」が科せられることになります。
違反行為に対する行政処分
懲役や罰金とは別に都道府県知事や農林水産大臣から行政処分を受けることもあります。
例えば以下のような処分です。
- 許可取り消し処分
- 条件の変更
- 新たな条件の付与
- 工事の停止命令
- 現状回復命令
これらの行政処分に違反することは、懲役刑や罰金刑の対象となります。
なお、これらの処分の前に行政手続法に基づく聴聞または弁明の手続きをとることが適当であると考えられています。
強化された罰則
平成21年の農地法改正によって、違反行為に対する罰則が次のように強化されました。
法人への罰金
「300万円」 ⇒ 「1億円」
原状回復義務違反に対する罰則
「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」 ⇒ 「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」
行政代執行の制度の創設
原状回復を命じられた違反者がその義務を果たそうとしない場合、行政が自ら原状回復の措置の全部または一部を行うことができるというものです。
代執行による費用は違反者から徴収されます。
違反者とはいえ個人の財産に直接手を加えるということは、権力の濫用・人権侵害となる恐れがあります。したがって、行政も簡単に代執行するわけではありません。悪質な違反行為が認められる場合や公益のために緊急性が必要な場合に限り代執行が行われます。
厳罰化の背景
近年、農地法の許可を得ずに無断で農地を転用する事案が、年間8000件程度となっており、見過ごすことができない状況となっています。特に、産業廃棄物の捨て場として農地を使用するケースもあり、大規模な無断転用が行われている事例もあります。周辺農地への悪影響が懸念される中、これらの背景には大きな資本を持つ法人の存在があると考えられています。
これに対して、無断転用者に対する罰則は違反行為から得られる不当利得に比べて小さく、抑止力として機能していませんでした。無断転用の「やり得」、是正命令の「さぼり得」がまかり通っていたのです。
そこで、罰則規定を強化することで「やり得」「さぼり得」を見過ごさないようにしたのです。さらに、無断転用の罰は重いという意識が浸透し、抑止力として機能することが期待されています。
刑事告発はあり得るのか?
農業委員会や都道府県からの度重なる勧告や指導に従わずに違法状態を継続すると、刑事訴訟法239条2項の規定により、刑事告訴される可能性があります。
- 官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。
違反したからといって直ちに告発されるわけではなく、農業委員会は都道府県と連絡調整を図りながら通知→勧告→指導という法律に則った手続きで段階的に是正を求めてきますので、告発されるほどの悪質なケースは稀だと思います。
事例としては、平成22年に民主党幹部の議員が無断転用と原状回復偽装で告発を受けたことがあるようです。