以前このサイトでもご紹介しましたが、農地所有適格法人(旧農業生産法人)とは、法人として農業を行う農業法人のうち、特に農地の権利取得(買う・借りる)を行うことができる法人のことです。
農地所有適格法人(旧農業生産法人)の概要についてはこちらをご覧ください。
今回は、農地所有適格法人と認められるための要件についてより具体的にご紹介します。
なお、このページでは根拠となる法令の条文を多く掲載しています。よって、かなりのボリュームとなっておりますので、1回で理解するのは大変かもしれません。
ブックマークなどしていただき、繰り返し読んでいただくとより理解が深まると思います。
農業生産法人は「農地所有適格法人」になりました。
農地法の改正により、平成28年4月1日から農業生産法人は農地所有適格法人という呼称に変わり、その要件も緩和されることになりました。
そこで、変更部分についてこのページも改訂することにしました。
改訂にあたり、まだ新しい農地所有適格法人が世間に浸透していないと考えられるため、あえて旧農業生産法人の要件についての記載は削除せず、新旧の要件を比較できるような形にしています。
(平成28年4月)
農地所有適格法人(旧農業生産法人)の4つの要件
農地所有適格法人となるには、次の4つの要件をすべて満たしている法人のことです。
このうち平成28年4月1日から変更となったのは、「3.構成員要件」と「4.業務執行役員要件」だけです。
1.組織形態要件
農地所有適格法人の組織形態要件は、農地法2条3項に定められています。
農地法2条3項
- この法律で「農地所有適格法人(旧農業生産法人)」とは、農事組合法人、株式会社(公開会社でないものに限る)又は持分会社で、次に掲げる要件の全てを満たしているものをいう。
したがって、農地所有適格法人になることができるのは、次のいずれかの組織形態となります。
- 農事組合法人(2号法人のみ)
- 株式会社(非公開会社のみ)
- 持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)
よって、上場株式会社、NPO法人、一般社団法人、宗教法人、学校法人などは農地所有適格法人(旧農業生産法人)になることはできません。
農事組合法人
農事組合法人とは、農業協同組合法という法律で定められた法人で、その法人の組合員の共同の利益増進を目的としており、営利目的というよりも協同組合的な組織となっています。
農事組合法人が行うことができる事業は法令によって定められており、ぞの事業内容によって1号法人と2号法人に分けられます。
農事組合法人が行うことのできる事業は以下の通りです。
- 農業に係る共同利用施設の設置又は農作業の共同化に関する事業(1号)
- 農業の経営(2号)
- 前2号の事業に附帯する事業
上記1号のみを行う法人のことを1号法人といい、1号と2号または2号のみを行う法人のことを2号法人といいます。
このうち、1号法人は主に農業用機械や施設を共同利用したり、農作業を共同で行ったりする場合に使われる法人で、法人自体は農業経営を行うことはできません。したがって、1号法人は農地所有適格法人になることはできません。
2号法人は、農業経営を行うことを認められていますので、農地所有適格法人となることができます。
非公開会社
非公開会社とは、発行する全部の株式について、その株式を取得するのに株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けている株式会社のことです。
反対に公開会社とは、その発行する全部または一部の株式の取得について、株式会社の承認を要する旨の定款を定めを設けていない株式会社のことです。例えば、株式の自由取引が可能な上場企業のことです。
国内の企業のうち、一部の大企業を除いてほとんどの株式会社が非公開会社です。非公開会社の株式会社は農地所有適格法人になることができます。
持分会社
合名会社、合資会社、合同会社の総称のことです。株式会社が出資者と経営者が別なのに対し、持分会社は出資者が経営者となります。
詳しい説明は省きますが、持分会社は株式会社よりも仲間意識を重視した小規模の会社と考えてください。
持分会社であれば農地所有適格法人になることができます。
農地所有適格法人(旧農業生産法人)の数
農水省の統計によると、平成22年における農地所有適格法人の数は全国で11,829社あり、その組織形態による内訳は次のようになっています。
組織形態 | 組織数(平成22年現在) |
---|---|
有限会社 | 6,907社 |
合名・合資会社 | 56社 |
合同会社 | 114社 |
農事組合法人 | 3,056社 |
株式会社 | 1,696社 |
組織別の増加率を見てみると、合同会社が9.5倍で1位となっており、次いで株式会社が4.4倍となっています。
2.事業要件
農地所有適格法人であるためには、法人の営む主たる事業が農業である必要があります。ただし、ここいう「農業」は純粋な農作業に限りません。
次のようなものも農業に含まれるとされています。
農地法2条3項1号
- その行う農業に関連する事業であって農畜産物を原料又は材料として使用する製造又は加工その他農林水産省令で定めるもの。
- 農業と併せ行う林業。
- 農事組合法人にあっては農業と併せ行う農業協同組合法第72条の8第1項1号の事業。
主たる事業
主たる事業であるかどうかの判断は、直近3年間における農業(関連事業を含む)の売上高が、法人の事業全体の過半を占めているかどうかで判断します。
処理基準(平成12年6月1日 通知)
- 「法人の主たる事業が農業」であるかの判断は、その判断の日を含む事業年度前の直近する3か年(異常気象等により、農業の売上高が著しく低下した年が含まれている場合には、当該年を除いた直近する3か年)におけるその農業に係る売上高が、当該3か年における法人の事業全体の売上高の過半を占めているかによるものとする。
なお、農業経営の実績がない者は、今後3年間の事業計画に基づき判断されます。
農業に関連する事業
農地法2条3項1号に定める「農業に関する事業で農林水産省令に定めるもの」は、次の通りです。
農地法施行規則2条
- 農畜産物の貯蔵、運搬又は販売
- 農業生産に必要な資材の製造
- 農作業の受託
- 農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律第2条第1項に規定する農村滞在型余暇活動に利用されることを目的とする施設の設置及び運営並びに農村滞在型余暇活動を行う者を宿泊させること等農村滞在型余暇活動に必要な役務の提供
農業に関連する事業の具体例
どのような事業が農地所有適格法人の事業として認められるのかを示した具体例が、農林水産省から発表されています。
例えば、次のようなことが想定されています。
処理基準(平成12年6月1日 通知)
- 「農畜産物を原料又は材料として使用する製造又は加工」とは、りんごを生産する法人が、自己の生産したりんごに加え、他から購入したりんごを原料として、りんごジュースの製造を行う場合等である。
- 「農畜産物の貯蔵、運搬又は販売」とは、りんごの生産を行う法人が、自己の生産したりんごに加え、他の農家等が生産したりんごの貯蔵、運搬又は販売を行う場合等である。
- 「農業生産に必要な資材の製造」とは、法人が自己の農業生産に使用する飼料に加え、他の農家等への販売を目的とした飼料の製造を行う場合等である。
- 「農作業の受託」とは、水稲作を行う法人が自己の水稲の刈取りに加え、他の農家等の水稲の刈取りの作業の受託を行う場合等である。
- 「農村滞在型余暇活動に利用されることを目的とする施設」とは、観光農園や市民農園(農園利用方式によるものに限る。)等主として都市の住民による農作業の体験のための施設のほか、農作業の体験を行う都市の住民等が宿泊又は休養するための施設、これらの施設内に設置された農畜産物等の販売施設等である。また、「必要な役務の提供」とは、これらの施設において行われる各種サービスの提供を行うことである。
3.構成員要件
農地所有適格法人の構成員となることができる者に関する要件のことです。
構成員とは
誤解が多いので冒頭で解説しておきますが、構成員とは株式会社においては株主、持分会社においては社員(=出資者)、農事組合法人においては組合員のことで、会社から雇用されているだけのいわゆる従業員は構成員には該当しません。
すべての構成員は、次のいずれかの者でなければなりません。
農地法2条3項2号
- 農地に関する権利を法人に移転した者、法人に対し権利を設定した者、および3条許可申請者
- 法人の農業に常時従事する者
- 農作業委託者
- 農地保有合理化法人、地方公共団体、農業協同組合、農業協同組合連合会
法人から物資または役務の提供を受ける者またはその法人の事業の円滑化に寄与する者等(平成28年4月削除)- 農地中間管理機構または農地利用集積円滑化団体を通じて法人に農地を貸し付けている個人(平成28年4月新設)
農地の権利を法人に移転した者等
法人に農地を貸したり、売ったりする者です。つまり、農地の地主さんと言い換えることができるでしょう。
さらに、これから農地の借主または売主となるために農地法の許可申請をしている者も含まれます。
法人の農業に常時従事する者
農業に常時従事しているかの判断は、原則として法人の行う農業に年間150日以上従事しているかどうかで判断されます。
農地法施工規則9条
- その法人の行う農業に年間150日以上従事すること。
- その法人の行う農業に従事する日数が年間150日に満たない者にあっては、その日数が年間付録第1の算式により算出される日数(その日数が60日未満のときは、60日)以上であること。
- その法人の行う農業に従事する日数が年間60日に満たない者にあっては、その法人に農地若しくは採草放牧地について所有権若しくは使用収益権を移転し、又は使用収益権に基づく使用及び収益をさせており、かつ、その法人の行う農業に従事する日数が年間付録第1の算式により算出される日数又は付録第2の算式により算出される日数のいずれか大である日数以上であること。
付録第1・付録第2
(ア)150日未満であっても、次の算式で求められる日数以上であればよい。
構成員1人あたりの平均労働日数の3分の2以上、最低でも60日以上が必要労働日数であること。
(イ)農地等提供者は60日未満であっても、次の算式で求められる日数以上あればよい。
法人の経営面積に対する提供面積の比率を総労働に乗じた日数以上であること。
新規の場合には、これから先の事業計画等により判断されます。
農作業委託者
平成21年の農地法改正により、構成員になることができるものとして追加され、構成員として認められるようになりました。
ここでいう「農作業」は、農産物を生産するために必要な基幹的な作業のことで、具体的には次のように基準が示されています。
処理基準(平成12年6月1日 通知)
- 農産物を生産するために必要となる基幹的な作業とは、水稲にあっては耕起・代かき、田植及び稲刈り・脱穀の基幹3作業、麦又は大豆にあっては耕起・整地、播種及び収穫、その他の作物にあっては水稲及び麦又は大豆に準じた農作業をいう。
法人から物資または役務の提供を受ける者または事業の円滑化に寄与する者等(平成28年4月削除)
この項目は平成28年の法改正により削除されました。
法人から物資または役務の提供を受ける者または事業の円滑化に寄与する者等とは、次に掲げる者です。
農地法施行令2条
- その法人からその法人の事業に係る物資の供給又は役務の提供を継続して受ける者
- その法人に対してその法人の事業に係る物資の供給又は役務の提供を継続して行う者
- その法人に対するその法人の事業に係る特許権についての専用実施権の設定又は通常実施権の許諾に係る契約及び新商品又は新技術の開発又は提供に係る契約並びにこれらに準じてその法人の事業の円滑化に寄与すると認められる農林水産省令で定める契約を締結している者
物資の供給等を継続して受ける者および行う者
例えば、産直契約をしている個人や法人、生活協同組合、農産物の購入契約を締結している食品会社やスーパー、農産物の運送契約をしている運送業者、苗木等の供給契約をしている農業資材業者等があります。
なお、上記の農地法施行令2条に規定された「継続して~」とは、3年以上の期間を契約期間とする契約を締結している者のことです。
処理基準(平成12年6月1日 通知)
- 「継続して受ける者」及び「継続して行う者」とは、3年以上の期間を契約期間とする同条各号に掲げる内容の契約を締結している者をいうものとする。この契約には、当初の契約期間が3年以上であってその後更新され契約期間が延長されたもの、また、3年以上の期間を契約期間とする契約を締結している者が法人に出資する時点ではその契約期間の残年数が3年未満となっているものも含まれるものとする。
事業の円滑化に寄与する者
事業の円滑化に寄与すると認められる農林水産省令で定める契約とは、以下の事項に該当する契約のことです。
農地法施工規則7条
- 実用新案権についての専用実施権の設定又は通常実施権の許諾に係る契約
- 育成者権についての専用利用権の設定又は通常利用権の許諾に係る契約
例えば、ライセンス契約を締結している種苗会社などのことです。これらの者は個人や法人を問わず、構成員となることができます。
議決権の制限
上記のような農業関係者の構成員ではなく、農業関係者以外の構成員については、保有できる議決権に制限があり、原則として総議決権の2分の1未満までとされています。
農地法2条3項2号(抜粋)
- その法人が、株式会社にあっては株主の有する議決権の合計が総株主の議決権の過半を、持分会社にあっては社員の数が社員の総数の過半を占めているもののいずれかであること。
平成28年の法改正により、議決権の制限は4分の1以下から2分の1未満に緩和されました。
※繰り返しになりますが、持分会社の「社員」とは出資者のことであり、雇用されているだけの従業員のことではありません。
議決権制限の特例(平成28年4月削除)
この項目は平成28年の法改正により削除されました。
通常の取引関係者などは、総議決権の4分の1までしか保有することはできませんが、農業生産法人の農業経営の改善に特に寄与する者は、その者が保有するすることができる議決権は総議決権の2分の1未満まで増やすことができます。
農地法2条3項2号(抜粋)
- その法人と連携して事業を実施することによりその法人の農業経営の改善に特に寄与する者として政令で定める者があるときは、保有する議決権の合計が総株主の議決権の2分の1未満であるもの。
例えば、食品生産製造業者等促進事業を実施する食品製造業者、農商工等連帯事業を実施する中小企業者、生産製造連携事業を実施する製造事業者等が挙げられます。
なお、認定農業者である農地所有適格法人についても農業改善計画の認定期間(5年)に限り、総議決権の2分の1未満までその取得が認められます。
認定農業者についてはこちらをご覧ください。
議決権を制限する理由
取引関係者の議決権を制限する理由として農水省は、「農業関係者以外の者が議決権の行使により会社の支配権を有することになることを阻止するため」と説明しています。
しかし、経営規模を拡大していきたい農地所有適格法人にとっては、出資を受けられる額が制限されてしまうことになり、かえってマイナスの影響があるとの指摘もあります。
4.業務執行役員要件
業務執行役員とは、法人の経営を行う役員のことで、株式会社の場合は取締役、農業組合法人の場合は理事、持分会社の場合は業務執行役員のことを指します。
組織形態 | 業務執行役員 |
---|---|
株式会社 | 取締役 |
農事組合法人 | 理事 |
持分会社 | 業務執行役員 |
これらの業務執行役員のうち、その過半は農業に常時従事する構成員でなければならないとされ、さらにその過半は、農作業に60日以上従事しなければならないとされています。(平成28年4月削除)
農地法2条3項3号(抜粋)
- その法人の常時従事者たる構成員が理事等の数の過半を占めていること。
過半
過半とは、半数を過ぎるという意味ですので、例えば6人のうちの3人は過半にならず、4人以上が過半となります。
平成28年法改正により、農業に常時従事する者の過半が農作業に年間60日以上従事しなければならないという規定は削除され、それに換わって、役員または重要な使用人(農場長等)のうち1人以上が農作業に年間60日以上従事しなければならないという規定が新設されました。
農地法2条3項4号(抜粋)
- その法人の理事等又は農林水産省令で定める使用人のうち、1人以上の者がその法人の行う農業に必要な農作業に1年間に60日数以上従事すると認められるものであること。
農林水産省令で定める使用人
農林水産省令で定める使用人とは、次のような者です。
- その法人の使用人であって、当該法人の行う農業に関する権限及び責任を有する者とする。
農業に必要な農作業
農業に必要な農作業とは、直接的かつ肉体的な作業のことであり、事務所でのデスクワークや営業活動は、ここでいう農作業には該当しないとされています。
処理基準(平成12年6月1日 通知)
- 「その法人の行う農業に必要な農作業」とは、耕うん、整地、播種、施肥、病虫害防除、刈取り、水の管理、給餌、敷わらの取換え等耕作又は養畜の事業に直接必要な作業をいい、耕作又は養畜の事業に必要な帳簿の記帳事務、集金等は農作業には含まれないものとする。
代表者が常時従業者になることが望ましい
法令による規定はありませんが、法人の代表権を持つ者が常時従事者であることが望ましいとされています。
さらに、兼務者や兼業者については常時従事者と認められない場合があるとされています。
- 法人の理事等について、他の法人からの出向者、他の法人の役職員の地位を兼務する者、農業以外の事業を兼業する者等については、住所、農業従事経験、給与支払形態又は所得源等からみて、当該法人の農業に常時従事する者であると認められない場合がある。
- 農地所有適格法人による農地等の効率的利用を図るためには、その法人の理事等のうち代表権を有するものは、農業が営まれる地域に居住し、その行う農業に常時従事する構成員であることが望ましい。
お疲れさまでした
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。農地所有適格法人の要件についてはここまでとなります。お疲れさまでした。
おそらく、情報が多すぎて1回読むだけでは理解することは難しいと思います。必要に応じて何度か読み返していただくと理解が深まると思います。
参考にしてみてください。