Q1.農業生産法人はペーパーカンパニーでもよいですか?
ペーパーカンパニーとは、登記上は存在しているものの、実際の活動をしていない会社のことです。
農業生産法人の場合、ペーパーカンパニーでは認められません。なぜなら、ペーパーカンパニーでは、農業生産法人たりうる要件を満たすことができないからです。
農業生産法人になるためには、4つの要件(①組織形態要件 ②事業要件 ③構成員要件 ④業務執行役員要件)を満たす必要があります。
農業生産法人の要件についてはこちらで詳しく解説しています。
これらの要件のうち、ペーパーカンパニーであっても、①組織形態要件と③構成員要件は満たすことができると考えられますが、②事業要件と④事業執行役員要件は満たすことができません。
②事業要件が満たせない理由
農地法2条3項1号は、農業生産法人の主たる事業が農業でなければならないと規定しています。
主たる事業が農業かどうかの判断方法は、農業水産省令によって定められ、農業の売上高が事業全体の過半であるかどうかで判断することになっています。
したがって、ペーパーカンパニーは活動をしていない法人のことですので、農業生産法人の要件を満たすことができません。
④業務執行役員要件が満たせない理由
農地法2条3項3号では、農業生産法人の役員の過半数が農業に従事し、さらにその過半数が耕うんや稲刈りなどの直接的な農作業を一定日数以上行わなければならないと規定しています。
したがって、活動をしていないペーパーカンパニーでは業務執行役員要件を満たすことはできません。
農業生産法人には農業委員会への報告義務もある
農業生産法人は農地法6条によって、農業生産法人としての要件の適合性を確認するために、毎年、農業委員会に事業報告をしなければなりません。
もし、農業生産法人としての要件を満たせなくなった場合、農業委員会から是正勧告を受けることになります。
なお、この報告義務を怠ったり、虚偽の報告をすると、30万円以下の過料に処せられます。
Q2.農業生産法人が株式会社の場合、取締役にはどのような責任がありますか?
農業生産法人のうち株式会社として設立されるものについては、会社法に基づき1人以上の取締役を置かなくてはならないとされています。
取締役は、株主総会において選任され、善管注意義務と忠実義務を負うものとされています。
善管注意義務
善管注意義務とは、「善良な管理者の注意を持って会社の職務を遂行する義務」のことで、会社の経営者や取引について一般的、客観的に要求される注意義務を負います。
したがって、取締役が善管注意義務違反によって会社に損害を与えた場合、取締役は会社の対して損害賠償責任を負わなければなりません。
忠実義務
忠実義務とは、「法令および定款並びに株主総会の決議を遵守し、会社のために忠実にその職務を行う義務」のことです。
取締役は、忠実義務によって、その地位を利用して会社の利益を犠牲にして自己の利益を図ってはならないとされています。
その他の義務
その他、自分自身や第三者の利益となり、会社に損害を与えるような行為を行ってはいけない義務(利益相反取引禁止義務・競業取引禁止義務)を負っています。
当然、これらの義務を怠り会社に損害を与えると、会社に対して損害賠償をしなければなりません。
Q3.農業生産法人が農業生産法人でなくなったらどうなりますか?
農業生産法人の構成員が死亡するなどして、農業生産法人たる要件を欠いてしまう可能性があります。
そのため農地法では、その法人もしくはその一般承継人が所有する農地または第三者が所有する農地で、その法人もしくはその一般承継人の耕作等に供されているものがあるときは、国が買収することを定めています。
しかし、この買収制度の趣旨は、農業生産法人たる要件を満たしていない法人が農地を所有している状態を解消するための措置であって、その要件を欠いたからといって即時に買収が決定されるのでありません。
今後も農業生産法人の要件を具備することができないと認められる場合などに行われると考えられます。
一般承継人
権利義務を一括して承継する者。例えば、死亡した者の財産を包括的に承継する者のこと。
Q4.合同会社でも農業生産法人になることができますか?
農業生産法人になることができるのは、農事組合法人、非公開株式会社、持分会社です。
合同会社は持分会社の一種ですから、農業生産法人としての要件を満たすことができれば、合同会社でも農業生産法人になることは可能です。
なお、平成22年の時点で合同会社の農業生産法人は、全国で114社あります。