「耕作放棄地を何とかしたい。」「相続した農地を処分したい。」というご相談をいただくことがしばしばあります。
お話を聞くと、「市街化調整区域の農地は売却できない」と勘違いしている方や、「近所の不動産屋に駆け込んだら門前払いされてしまった。」という方もいらっしゃいます。
このサイトでは、市街化調整区域における農地転用や住宅の建築について解説していますのでお分かりいただけると思いますが、
市街化調整区域の農地は売却できる可能性があります。
しかし同時に、法令の規制が厳しくいろいろな手続きが必要になることも事実で、簡単に高値で売れるほど甘くはないと考えられます。
そもそも農地の売却といっても、耕作目的で売却するのか、農地転用して売却するのかによっても違いがあるわけですが、今回はご相談内容からも検討されている方が多いと思われる、農地転用して売却するケースを中心に考えていきたいと思います。
立地状況が重要!
市街化調整区域の農地を売却する場合において最も重要な事項は、その農地の立地状況と考えらえます。
なぜなら、このサイトでもご紹介していますが、農地にはいくつかの種類があり、法令の規制の厳しい農地もあれば規制の緩い農地もあります。
農地の種類についてはこちらで確認できます。
このうち、農用地区域内農地、甲種、第1種のような規制の厳しい農地に該当してしまうと、農地転用して売却することは極めて困難になりますのでご注意ください。
反対に、第2種、第3種と呼ばれる農地は転用ができる可能性があります。
住宅などの建築を検討する場合は注意が必要です
住宅などの建築を検討する場合は、農地法以外にも都市計画法や建築基準法などの他法令にも適合しなければなりません。
このうち、都市計画法では住宅の建築ができる者を制限しており、その立地についても規制があります。
いわゆる集落性というものです。
詳しい解説は省きますが、ある程度の宅地が集まっている場所でないと建築は認められません。許可申請において審査される宅地の「連たん」はこの集落性を確認しているのです。
ですから、たとえ農地の種類が第3種であって規制が緩いとしても、集落性が認められなければ建築物を建てるという目的で農地転用はできないということになります。
正当な理由が必要!
原則として、市街化調整区域では農地の転用や建築行為は禁止されており、許可を受けることで例外的に可能になるという仕組みになっています。
したがって、許可を受けるためにはその必要性(正当な理由)が必要になるわけです。
ですから、例えば、駐車場に転用することを検討しているなら、「隣接地が会社で、駐車場が不足して路上駐車が常態化している」、「孫が車を買ったが、敷地内に停める場所がないので隣の農地を買って駐車場としたい」といったような状況が存在しないといけません。
後付け理由はお門違い!
問い合わせでよくあるのが、「どういう名目なら許可が下りるのか?」という質問です。
ハッキリ言って、考え方が間違っています。
正当な理由があって許可を受ける必要があるという状況が正解であり、許可を受けるために理由を作るというのは虚偽申請をすることにもなりかねません。
根拠もなく「売れる」と謳う怪しい不動産屋に騙されないようにしてください。
当然ながら、当事務所ではこのような案件はお断りしています。
買主を先に見つけなければならない
農地を売却するためには、農地法の許可を受けなければならないことは大前提として、住宅などの建築を目的とするならば、建築許可などの他法令の許認可も必要になってきます。
当たり前の話ですが、許可を受けた後でなければ、事業を開始したり工事を行ったりすることはできません。
そして、申請する者(=許可を受ける者)は、許可後にその土地または建築予定の建物を利用する者でなければなりません。
例えば、法人の駐車場に転用するのであれば申請人はその法人になりますし、住宅を建てるのであれば申請人はその住宅に住む人(施主)でなければなりません。
つまり、許認可を受ける前に買手(許可後においてその土地、建物を利用する者)を確保しておかなければならないということになります。
したがって、不動産屋が転売目的で買手が現れるまで一時的に買い受けるとか、ハウスメーカーが住宅を建ててから買手を探すといってことはできないことになります。
「とりあえず買っておく」ことは認められないというわけです。
買手が現れてから調査をしなければならない
上記のとおり、買手が決まらなければ各種の許認可を受けることはできず、結果的に売却はできません。
そして、この点が市街化調整区域の農地を売却する場合に最も面倒な手続きになるのですが、たとえ「買います!」という人が現れたとしても、その者がすべての許認可を受けることができなければ売却はできません。
したがって、「買います!」という人が現れてから役所に問い合わせて、この人が許認可を受けることができる見込みがあるという結論に至ってはじめて次の段階に進めるということになります。
許認可に「絶対」はない!
大事なポイントとして、許認可に「絶対」はないということを覚えておいてください。
事前の調査で許可を受けることができる見込みがあるという判断がなされたとしても、結局許可を受けられない可能性も考えられます。
これは、例えば申請中に買主が死亡してしまったり、法令の要件を満たしていないことが事後的に発覚することなどが考えられるからです。
よって、役所は「絶対に許可を出せる」とは絶対に言いませんし、私のような専門家も同様です。
むしろ、「絶対許可がとれる!」と豪語する人は怪しんだ方がよいでしょう。許認可の最終的な判断は役所がします。その役所ですら「絶対」と言わないのに、外部の人間になぜ「絶対」が言えるのでしょうか?
なんの根拠もありませんし、あなたが損害を被るかもしれませんのでご注意ください。
なお、不動産業の実務上、許認可を受ける前に仮契約をして手付金等を支払うケースがありますが、一般的には「許認可が受けられなければ契約を解除する」旨の内容が契約書に盛り込まれています。
売れるかどうかは売りに出してみないと分からない!?
これまで散々、市街化調整区域の農地を売却することの困難さを述べてきましたが、立地状況が悪くないのであれば、思い切って売りに出してみることをお勧めします。
なぜなら、あなたの農地を買いたい人が、いつ・どこにいるかなんて分からないからです。
以前、このホームページをご覧になった方から、相続した農地を処分したいというご依頼を受け、立地状況等を調査した結果、住宅用地としての可能性があったため不動産屋にバトンタッチして情報を公開したところ、意外にもすぐに買手が見つかり、間もなく分家住宅を建築することになっています。
手続きが面倒であったり、市街化区域に比べて評価額が低いため、売買価格は低くなってしまいますが、当初の目的通り農地を処分できましたし、想定よりも高く売れたこともあって、依頼主様には大変喜んでいただいたようです。
このように、まず情報を公開してみないと何も始まりませんし、なんの変化もありません。情報の公開だけでしたら無料で行ってくれる業者はたくさんいますし、途中で止めたければ止めればいいのです。
まずは行動することが大切です。
相場はあまり気にしなくても良い!?
仮に、あなたの農地の立地状況が良好だったとして、いよいよその農地を売るために情報を公開するとなった場合、次に気になるのが「いくらで売れるのか?」ではないでしょうか?
そして、売買価格の設定によく参考にされるのが、周辺の土地の「相場価格」だと思います。
しかし、これは私の私見ですが、それほど相場に惑わされる必要はなく、最初は高くてもいいので「売りたい価格」を設定しておくのが良いのではないかと考えています。
なぜなら、前述のとおり、いつ・どこにあなたの農地を買いたいと思っている人がいるのか分からないからです。
また、そもそも市街化調整区域では物件数が乏しいため、明確な相場価格が算出できるのかという点も疑問ですし、不動産屋によっては、売れないという口実で極端に低い設定を要求されることも予想されます。
結局のところ需要と供給のバランスで価格が決まるわけですから、当事者双方が納得する価格が適正価格だと思います。
したがって、あなたの農地に魅力を感じている人は高く買ってくれるでしょうし、反対にあまり魅力を感じていなくても安ければ買いたいという人もいるわけです。
そこで売るかどうかはあなたの判断になるわけですから、相場はあまり役に立たないというのが当事務所の見解です。
結局のところはタイミング!?
誰でも自分の農地に魅力を感じてもらい、高く買ってもらいたいという望みをお持ちだとは思いますが、それが実現できるかどうかは、まさにタイミング次第だと思います。
幸運にも、すぐに高い値で売れるかもしれませんし、まったく売れない可能性もあります。
売れないなら価格を下げる作戦もありますし、高値をキープして粘り強く買手が現れるの待つという方法もあります。
いつ・どこでどんな買手が現れるのかは誰にも分かりません。しかも買手が現れたとしても許認可を受けられる人であるかはその時点では分かりません。
よって、タイミングの良し悪しで売買価格が大きく変わってしまうことは十分に考えられます。しかし逆にいえば、諦めがつくともいえるのかもしれませんね。
売却した後の費用にご用心!
農地の売却によって、大きなお金が動くことになります。
確定測量をすれば測量費、仲介を依頼すれば仲介手数料がかかります。また、売却後には税金がかかることもあります。
特に注意したいのが、譲渡所得税です。
譲渡所得税は、資産を譲渡したときに取得額と売買価格の差額に対して課される国税です。
分かりやすくいうと、安く買った土地を高く売ると、大きな利益を得たことになり、その差額に応じた税金がかかるというものです。
農地の場合も例外ではありません。しかも、代々受け継いできた農地の取得価格は不明であることが多く、この様な場合は、売買金額の95%が課税対象となってしまう可能性があるようです。
土地の売買にかかる費用・税金についてはこちらをご覧ください。(外部サイトにリンクします)
売却後、浮かれてお金を使い過ぎてしまうと、後から高額な納税を求められるかもしれませんので、くれぐれもご注意ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
かなりの長文になってしまいましたが、少なくとも市街化調整区域の農地が全く売れないという誤解は解けたのではないかと思います。
あとは行動あるのみです。繰り返しになりますが、売りに出してみないとあなたの農地の価値は分からないのが現実です。
迷っているなら、まずは情報を公開してみてはいかがでしょうか?