「頭が固い!」とか「融通が利かない!」と役所や公務員に対してやたらと敵対心をむき出しにする方がたまにいらっしゃいます。
確かに、いまだに感じの悪い横柄な態度の公務員もいるかと思います。
しかし幣所の感覚では、どの農業委員会の窓口も物腰が柔らかく親切な方が多いと感じており、なかには「お客様」扱いまでしてくれるところもあるくらいです。
(さすがにやりすぎではないかと思うのですが…)
これは農業委員会に限らず他の部署でも同様です。
どうせ手続きをするのならスムーズに気持ちよく行いたいと誰もが思うはずですが、なぜかわからないけど役所に行くとカリカリしてしまうという方は、ひょっとしたら役所に対して誤解をしているのかもしれません。
では、その誤解とは何か?良好な関係を築くためのポイントは何か?について考察していきたいと思います。
なお、農業委員会事務局には農業委員という非常勤公務員と事務局職員(市町村職員)で組織されていますが、ここでは窓口担当となっている職員(市町村職員)とどのように良好な関係を築いていけばよいかについて考えていきます。
行政とは何かを理解しよう。
いきなりテーマが大きくなってしまうのですが、非常に大切なポイントです。
まず、農業委員会も大きく分類すると1つの行政機関ということになります。
行政機関とは、三権分立を構成する柱になるわけですが、非常に簡単に表現すると「国会で決めたルール(法律)を実行する機関」です。
例えば、日本に居住する者が住民登録をしなければならない根拠は次のとおりです。
住民基本台帳法第6条(住民基本台帳の作成)
- 市町村長は、個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して、住民基本台帳を作成しなければならない。
これを実行しているのが市町村役場の市民課というわけです。
このように、行政機関とは常に法律(その他政令、省令、規則、条例、命令)に従って活動をしなければなりません。
農業委員会の場合、独自に農業委員会会則、農業委員会規程というルールを定めているところもあります。
これは「法律による行政」と呼ばれるものです。
法律による行政
法律による行政とは、「行政は国民の代表機関である国会が定めた法律に従って行われなければならない。」という、まさに民主主義の根底をなす原則のことです。
例えば、あなたが太陽光発電を理由に農地転用の許可申請をしようとしたとき窓口の職員と揉めたとしましょう。もしその職員があなたのことを気に入らないといって申請を拒否したとしたらどうでしょうか?
あなたは許可を受けることができず、太陽光発電で得られるはずの収益を得られなくなっていまいますが、あくまで許可を出すのは行政側ですからあなたはどうしようもありません。
このような行政権の恣意的な運用により国民の権利が侵害されることのないように、法律による行政の原則によって行政側の暴走を抑えているというわけです。
例えば、法定の書類が揃っている限り農業委員会は申請を拒否することはできません。これは行政手続法という法律に定められています。
行政手続法第7条(申請に対する処分)
- 行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。
この条文から読み取れることは、「法令に適合した申請書が窓口に到達したら審査を開始しなければならない。」「法令に適合しない申請書については、補正を求められるか拒否される。」
つまり、気に入らないといった理由で拒否するなど行政側の恣意的な運用が法律によって禁止されているということです。
軽微な書類の不備なら拒否されることはない。
誤字脱字や記入ミスなど軽微な訂正で済むものについて拒否されることはまずないと言ってよいでしょう。
この場合、あとから捨印などを利用して書き直すだけで審査が進むことがほとんどです。
添付書類が不足しているときは注意!
添付書類には大きく分けて「法定書類」と「参考資料」があります。
法定書類はその名のとおり、法令で定められた絶対に必要な書類のことで、農地転用で言えば土地の登記簿や公図が該当します。
参考資料とは、法令で定められてはいないが、役所が独自に求める資料のことで、農地転用で言えば見積書や隣地所有者の同意書がこれに該当します。
参考資料が足りていない場合は後日提出すれば問題ないことが多いですが、法定書類が足りていないときは拒否される可能性が高いのでご注意ください。
申請期間が過ぎると拒否される可能性大!
やむを得ない事由(天災など)がない限りにおいて、申請期限を過ぎてしまったものについては拒否される可能性が高いです。
ですから、もし期限が迫っているが書類の内容に困っているといった場合には、まず体裁を整えることを第一にして、たとえ内容は不十分だったとしてもとにかく不足している書類を入手することに注力した方が申請が遅れなくて済みます。
まず拒否されないようにしておいて、内容は後から補正するというわけです。
(とはいえ程度がありますが・・・)
やむを得ない事由に該当するかどうかは役所に相談してみよう。
天災以外にも、突然の事故や病気などの理由で申請期限に間に合わないことがあるかもしれません。
このような時は、例外的に認めてくれるかもしれませんので勝手にあきらめずまずは窓口に相談してみてください。
もちろん、理由が真実であることが分かる証拠が必要になると思われます。
農業委員会事務局の立場を理解しよう!
ここまで、行政全般の立場をご紹介してきましたが、ここからは農業委員会の立場について理解を深めておきましょう。
特に、許可申請などの書類を審査する農業委員会の事務局について理解をしておけば、おのずとどのような書類を作成すればよいかという方向性が見えてきます。
事務局の職員は農業委員や都道府県に申請内容を説明しなければならない!?
農地転用の許可申請の場合、事務局の職員は書類を受付けたあと農業委員会で毎月一回開催される会議で農業委員に対して申請案件を説明して採決をとり、次に一部の大きな市を除いて都道府県へ送って最終審査を受けます。
まず、農業委員会の会議では農業委員にその内容を説明して許可の可否について審査するのですが、農業委員は地元農業者の方が選任されていたりして必ずしも法律に詳しい人たちではありません。
そこで、事務局の職員は申請内容について説明をしてスムーズに採決が行えるようにサポートをするわけです。
農業委員会の会議を通過できれば実際のところ許可濃厚と考えられるのですが、時として都道府県の審査の段階で指摘や質問を受けたりすることがあります。
このような場合、事務局の職員は都道府県に対して説明をしたり、申請人に改めて確認するなどします。
つまり、申請人と審査人の仲介人のような役割をしているといえるわけです。
仲介人だって失敗したくない!?
もし仮に、事務局が法令に適合しないおかしな案件を受け付けてしまったとします。
そうすると、農業委員会の会議や都道府県から「なんでこんな案件を受け付けるのか!」「法令に適合していないじゃないか!」という指摘を受ける可能性があり、もはや申請人の責任ではなく事務局の責任問題となってしまいます。
このような事態が発生しないように、事務局は書類を受け付けてから会議までの間に書類の不備不足を確認して申請人に補正を求め、会議に備えているというわけです。
結論!仲介人が説明しやすい書類作成を心掛けよう。
ここまで、行政と農業委員会事務局の立場について説明してきましたが何となく理解していただけたでしょうか。
結論としては、農地転用をうまく進めるためには、申請人と決済人の間に入る農業委員会事務局の職員が、決済人(農業委員、都道府県)の指摘や質問に対して回答しやすい書類を作成することで申請を滞りなく進めるようにする。
ということになります。
では説明しやすい書類とはどのようなものでしょうか?
ズバリ!法令に適合していることが明示された書類!
農地転用は法定の要件を満たせば許可されることになっています。
それらの要件を満たしていることを明示して「ちゃんと法律を守ってますよ~」というのをアピールしておきましょうというわけです。
<具体例その1>
例えば、農地転用の一般基準には「周辺農地の営農条件に支障を生じさせないこと」があります。
農地転用の一般基準についてはこちらをご覧ください。
この要件を満たすことをアピールするために下の画像のように申請書に「隣接する農地には迷惑をかけないこと」「万が一被害が生じた場合は責任を負うこと」を明示しておきます。
(もちろん建前だけでなく実際にそのように対応しなければなりません)
※画像をクリックすると拡大できます。(画像は農地転用許可申請書の一部です。)
このほか土地利用計画図にブロック塀で雨水の対策がなされていることが図示されているとか、書類全体として整合性が保たれていないといけません。
文章では隣接農地に迷惑はかけないと書いてあるのに、土地利用計画では雨水の対策がされていないとなるとどちらが正しいのか分かりませんし、指摘の対象となりかねません。
文章だけ書いておけばよいというわけではありませんので勘違いしないようにしてください。
<具体例その2>
詳しい説明は省きますが、農地転用の許可基準に立地基準というものがあり、その中の第二種農地に区分される農地は、代替地が無い場合に限り許可がされることになっています。
農地転用の立地基準についてはこちらをご覧ください。
この場合、理由書において「この場所しかない」「他の土地では目的が達成できない」ということをしっかりアピールしておくことがポイントになります。
当ホームページで公開している例文をご覧ください。
※画像をクリックすると拡大できます。
今般上記土地に、分家住宅を建築したく申請しました。
現在私は下記住所地にて家族4人で借家生活をしておりますが、子供達も順調に成長し家財道具が年々増えて参り、現在の住まいではかなり手狭に感じるようになりました。
又、子供部屋の確保も必要になってきましたが、今の借家では不可能であり、夫に相談したところ、夫も同じように考えていた様で、相談の結果、今の住まいを離れて別の場所ヘ引っ越すという結論に至りました。
当初、別の借家ヘ移る事も検討しましたが、私達夫婦が考えているような子供部屋の確保が出来る間取りの借家はなかなか見つかりませんでした。又、家賃を払い続ける事に関しても無駄なお金を使っていると感じていた事もあり、住宅を建築する事にしました。
建築地を選定するにあたり、私の実家がある○○地区を希望しておりますが、私には自己所有地が無い為、同地区内の幾つかの土地所有者様と交渉してきましたが全て断られてしまい困り果てていたところ、唯一上記土地所有者様にのみ承諾が頂けた為、さっそく同地を申請地に決めました。
申請地は周辺農地への影響も少なく、閑静な集落内にあり、私達の分家住宅建築地として最適な土地であるといえます。
以上の事をどうかご理解頂き、早々にご処理して頂きます様 、よろしくお願い致します。
尚、本家につきましては、父□□が既に後継している為 、何等問題ありません。
上記の理由書では、唯一交渉がまとまった土地ということで「この場所しかない」ということをアピールしています。
なお、申請先によっては検討した土地のリストを提出しなければならないところもありますので、文面だけアピールすることはやめておくべきです。
分かりやすい例を2つ挙げましたが、農地転用の基準はこれだけではありません。
できるだけ多くの(できればすべての)基準を満たしていいることをうまくアピールできるように工夫してみてください。
まとめ
おつかれさまでした。
具体例が少し専門的な内容になってしまった部分もあって難しかったかもしれません。
農地転用の場合は窓口で揉めたりして事務局の職員と敵対しても良いことはありません。
法令に適合していることをしっかりアピールできている書類は指摘も受けにくく、審査する側もやり易いと感じるはずです。
むしろ、共同作業という感覚で取り組んでみてください。