農業法人には、会社法人と農事組合法人の2種類があります。会社法人はさらに株式会社と持分会社に分けられます。
会社法人のうち、4つの要件(①組織形態要件 ②事業要件 ③構成員要件 ④役員要件)を満たす会社法人は農地所有適格法人(旧農業生産法人)になることができます。
農地所有適格法人(旧農業生産法人)の要件についてはこちらで詳しく解説しています。
これまで農地の売買や貸し借りができる法人は、農地所有適格法人(旧農業生産法人)だけでした。しかし、平成21年の農地法改正により、農地の権利設定(貸し借り)については農地所有適格法人以外の法人でも、一定の要件を満たせば3条許可を受けることができるようになりました。
今回は、農地所有適格法人以外の法人が、農地について権利設定するための要件について解説します。
農地所有適格法人(旧農業生産法人)以外の法人が権利設定するための要件
以下の要件をすべて満たせば、農地所有適格法人以外の法人であっても3条許可を受けることができます。
- 使用貸借による権利または賃貸権の設定であること
- 解除条件付きの契約であること
- 地域において適切な役割分担を担うこと
- 継続的かつ安定的に農業経営を行うと見込まれること
- 業務を執行する役員が常時従事すること
上記の要件を満たせば、3条許可の許可要件である農作業常時従事要件の規定は考慮する必要はなくなります。
農地法3条許可についてはこちらをご覧ください。
1.使用貸借による権利または賃貸権の設定であること
農地所有適格法人以外の法人は、使用貸借または賃貸借の権利の設定ができるにとどまり、所有権の取得をすることはできません。
なお、使用貸借と賃貸借はどちらも農地を貸し借りするための権利設定ですが、使用貸借が無償であるのに対し、賃貸借は賃料を支払う点で異なっています。
2.解除条件付きの契約であること
使用貸借および賃貸借の権利を設定しようとする場合、その契約において「農地を適正に利用していない場合には、契約を解除する旨の条件が書面による契約において付されていること」が必要になります。
つまり、解除条件付きの契約書を交わす必要があるということです。
処理基準では、撤退したときの混乱を避けるため、特に次のような事項が明記されているかを確認することとされています。
処理基準(平成12年6月1日 通知)
- 農地等を明け渡す際の原状回復の義務は誰にあるか
- 原状回復の費用は誰が負担するか
- 原状回復がなされないときの損害賠償の取決めがあるか
- 貸借期間の中途の契約終了時における違約金支払の取決めがあるか
賃貸借契約書を作成する際の留意点についてはこちらでご確認ください。
3.地域において適切な役割分担を担うこと
「適切な役割分担を担う」については、処理基準によって次のように基準が例示されています。
処理基準(平成12年6月1日 通知)
- 「適切な役割分担の下に」とは、例えば、農業の維持発展に関する話合い活動への参加、農道、水路、ため池等の共同利用施設の取決めの遵守、獣害被害対策への協力等をいう。これらについて、例えば、農地等の権利を取得しようとする者は、確約書を提出すること、農業委員会と協定を結ぶこと等が考えられる。
農業は地域単位で協力して行われることもありますので、周辺農地の所有者と良好な関係を築いていかなくてはなりません。
4.継続的かつ安定的に農業経営を行うと見込まれること
継続的かつ安定的に農業経営が可能かどうかのが判断基準については、処理基準によって具体的に示されています。
処理基準(平成12年6月1日 通知)
- 「継続的かつ安定的に農業経営を行う」とは、機械や労働力の確保状況等からみて、農業経営を長期的に継続して行う見込みがあることをいう。
なお、新規参入の場合は、営農計画書によって判断されることになります。
5.業務を執行する役員が常時従事すること
業務を執行する役員のうち1人以上の者が「その法人の行う耕作又は養畜の事業に常時従事すると認められること」とされており、その判断基準は以下のように示されています。
処理基準(平成12年6月1日 通知)
- 「業務を執行する役員のうち一人以上の者がその法人の行う耕作又は養畜の事業に常時従事すると認められる」とは、業務を執行する役員のうち1人以上の者が、その法人の行う耕作又は養畜の事業(農作業、営農計画の作成、マーケティング等を含む。)の担当者として、農業経営に責任をもって対応できるものであることが担保されていることをいう。
- 「業務を執行する役員」とは、会社法上の取締役のほか、理事、執行役、支店長等の役職名であって、実質的に業務執行についての権限を有し、地域との調整役として責任を持って対応できる者をいう。
- 権限を有するかの確認は、定款、法人の登記事項証明、当該法人の代表者が発行する証明書等で行う。
「耕作又は養畜の事業」とは、農作業に限られておらず、企画管理作業も含まれることになります。
常時従事執行役員は、農業経営に責任をもって対応できる者で、かつ、地域との調整役としても責任も果たさなければならなので、地域に常駐していることが望ましいといえます。
農地の利用状況の報告
農地所有適格法人以外の法人が、農地を貸し借りするために農地法3条許可を受けた場合、許可を受けた者は毎年、農地の利用状況について農業委員会へ報告をしなければなりません。
農地法3条6項
- 農業委員会は、農地所有適格法人以外の法人に対して3条許可をする場合には、当該許可を受けて農地又は採草放牧地について使用貸借による権利又は賃借権の設定を受けた者が、農林水産省令で定めるところにより、毎年、その農地又は採草放牧地の利用の状況について、農業委員会に報告しなければならない旨の条件を付けるものとする。
報告すべき内容については、農林水産省令において次のように定められています。
農地法施行規則23条
- 申請者の氏名、住所及び職業(法人にあつては、名称、主たる事務所の所在地、業務の内容及び代表者の氏名)
- 土地の所在、地番、地目、面積、利用状況及び普通収穫高
- 転用の事由の詳細
- 転用の時期及び転用の目的に係る事業又は施設の概要
- 転用の目的に係る事業の資金計画
- 転用することによつて生ずる付近の農地、作物等の被害の防除施設の概要
- その他参考となるべき事項
許可の取消し
農地所有適格法人以外の法人は、次のような場合、3条許可を取り消される可能性があります。
農地法3条の2第2項
- その農地又は採草放牧地を適正に利用していないと認められるにもかかわらず、使用貸借又は賃貸借の解除をしないとき。
- 勧告を受けた者がその勧告に従わなかったとき。
そもそも、農地所有適格法人以外の法人が3条許可を受けるためには、解除条件付の契約が必要です。
したがって、契約に反して解除をしない場合、農業委員会が許可を取り消すことによって農地法の実効性を担保しています。
農地又は採草放牧地を適正に利用していない
「農地又は採草放牧地を適正に利用していない」とは、無断転用した場合や遊休農地にした場合をいいます。
勧告
農地所有適格法人以外の法人は、次の場合、農業委員会から勧告を受ける恐れがあります。
農地法3条の2第1項
- 農地又は採草放牧地において行う耕作又は養畜の事業により、周辺の地域における農地又は採草放牧地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に支障が生じている場合
- 地域の農業における他の農業者との適切な役割分担の下に継続的かつ安定的に農業経営を行つていないと認める場合
- 法人である場合にあっては、その法人の業務を執行する役員のいずれもがその法人の行う耕作又は養畜の事業に常時従事していないと認める場合
この勧告は許可の取消しの前に行われ、勧告に従わなかった場合、必ず許可は取り消されることになります。
勧告事由の具体例
上記の勧告事由の具体例が、処理基準により示されています。
処理基準(平成12年6月1日 通知)
- 例えば、病害虫の温床になっている雑草の刈取りをせず、周辺の作物に著しい被害を与えている場合。
- 例えば、病害虫の温床になっている雑草の刈取りをせず、周辺の作物に著しい被害を与えている場合。
- 例えば、法人の農業部門の担当者が不在となり、地域の他の農業者との調整が行われていないために周辺の営農活動に支障が生じている場合。
まとめ
農地法の改正により、法人の農業参入は以前に比べて容易になりました。
しかし、農業は地域と密接な関係のある地域産業ですから、地域の営農者との調和がとても大切になります。
農地法では、地域との調和と調和を図ることが要件とされ、これに違反すると「勧告」や「取消し」などの処分がされ、法人の農業参入に対する規制は強化されているといえます。