特定農業法人とは、担い手不足が見込まれる地域で、その地域の農地の利用の過半を担う法人として、地域の合意を受け、市町村の認定を受けた農業生産法人のことです。(農業経営基盤強化促進法23条4項)
特定農業法人が市町村の認定を受けることにより、農地を分散することなく、地域内でまとまった農地の借受けが可能になり、税制上の特例の適用も受けることができるようになります。
特定農業法人認定の流れ
特定農業法人認定の流れは、以下の通りです。
- 農用地利用改善団体の結成
- 農業生産法人の設立(すでに農業生産法人がある場合は不要)
- 特定農用地利用規定の作成
- 市町村長の認定
- 公告(特定農業法人の成立)
1.農用地利用改善団体の結成
農用地利用改善団体とは、集落などの一定の地縁的なまとまりをもつ区域内の農用地の所有者や利用権者の3分の2以上で構成する団体のことで、農作業の効率化や農地の利用関係の改善等の農用地利用改善事業を行います。
農用地利用改善団体の設立要件は次の通りです。
- 市町村が定める基本構想に基づく基準に適合する区域を農用地利用改善事業の実施区域とすること。
- その区域の農用地について権利を有する農業者等の3分の2以上の者が構成員となっていること。
- 政令で定める基準に従った定款又は規約を有し、かつその定款又は規約に農林水産大臣の定める事項が定められ、その内容が同大臣が定める基準に適合していること。
- 農用地利用改善事業の準則となる農用地利用規程を定め、市町村の認定を受けること。
農用地利用改善事業
農用地利用改善事業団体が農用地の利用に関する規程(農用地利用規程)で定めるところに従い、農用地の効率的かつ総合的な利用を図るための作付地の集団化、農作業の効率化その他の措置および農用地の利用関係の改善に関する措置を推進する事業。
農用地利用規程
農用地利用規程とは、農用地利用改善団体が農用地利用改善事業を行う場合において、実地内容を定めたもの。
農用地利用規程には、次の事項を定める必要があります。
農業経営基盤強化促進法23条2項
- 農用地の効率的かつ総合的な利用を図るための措置に関する基本的な事項
- 農用地利用改善事業の実施区域
- 作付地の集団化その他農作物の栽培の改善に関する事項
- 認定農業者とその他の構成員との役割分担その他農作業の効率化に関する事項
- 認定農業者に対する農用地の利用の集積の目標その他農用地の利用関係の改善に関する事項
- その他必要な事項
2.農業生産法人の設立
農地法の規定に従い、地域内の受け手となるべき農業生産法人を設立します。
すでに農業生産法人が設立されている場合には、新たな法人の設立は不要です。
3.特定農用地利用規程の作成
特定農用地利用規程とは、農用地利用規程内に農用地利用改善事業の実施区域での農用地集積先として農業生産法人等を定めたものです。
農用地利用改善団体は、当団体が行う農用地利用改善事業の準則となる特定農用地利用規程を作成します。
特定農用地利用規程には、農用地利用規程内に以下の事項を加える必要があります。
農業経営基盤強化促進法23条5項
- 特定農業法人又は特定農業団体の名称及び住所
- 特定農業法人又は特定農業団体に対する農用地の利用の集積の目標
- 特定農業法人又は特定農業団体に対する農用地の利用権の設定等及び農作業の委託に関する事項
4.市町村長の認定
市町村長は、特定農用地利用規程について認定の申請があった場合、法令の要件を満たしているかどうかを審査した上で認定をします。
認定要件は以下の通りです。
<農用地利用規程の認定要件>
- 農用地利用規程の内容が基本構想に適合するものであること。
- 農用地利用規程の内容が農用地の効率的かつ総合的な利用を図るために適切なものであること。
- 認定農業者とその他の構成員との役割分担が認定農業者の農業経営の改善に資するものであること。
- 農用地利用規程が適正に定められており、かつ、申請者が当該農用地利用規程で定めるところに従い農用地利用改善事業を実施する見込みが確実であること。
<特定農用地利用規程の認定要件>
- 特定農業法人又は特定農業団体に対する農用地の利用の集積の目標が、実施区域内の農用地の相当部分(過半)について利用の集積をするものであること。
- 申請者の構成員からその所有する農用地について利用権の設定等又は農作業の委託を行いたい旨の申出があった場合に、特定農業法人が当該申出に係る農用地について利用権の設定等若しくは農作業の委託を受けること又は特定農業団体が当該申出に係る農用地について農作業の委託を受けることが確実であると認められること。
農作業受託の義務
特定農業法人は、地権者から農地または農作業を引き受けるように依頼があったときは、これに応じる義務を負います。
5.公告
市町村は、認定をしたときは、遅滞なくその旨を広く一般に知らせます。(公告)
市町村の公告をもって特定農業法人の成立となります。
特定農業法人のメリット
特定農業法人のメリットには次のようなものがあります。
- 地域内でまとまった農地の借受けが可能となる。
- 税制上の特例を受けることができる。
税制上の特例(農業経営基盤強化準備金制度)
税制上の特例措置として、経営所得安定対策等の交付金の対象者であり、青色申告によって確定申告を行う特定農業法人は、次のような税制上の特例を受けることができます。
- 経営所得安定対策等の交付金を農業経営改善計画などに従い、農業経営基盤強化準備金として積み立てた場合、この積立額を個人は必要経費、法人については損金として算入することができる。
- 農業経営改善計画などに従い、5年以内に積み立てた準備金を取り崩したり、受領した交付金を用いて農用地や農業用機械などの固定資産(トラクター、ビニールハウス、精米機など)を取得した場合に圧縮記帳することができる。
積立時には、本来所得になってしまう交付金を必要経費とすることができ、一方で取り崩し時には、本来資産になってしまうものを必要経費として算入でき、所得税の軽減が可能になります。
圧縮記帳
圧縮記帳とは、交付金により取得した農業用固定資産の帳簿価格を一定額まで減額し、その減額分を必要経費に算入することにより、その年度の課税所得を減額する方法です。
なお、農業経営基盤強化促進法23条7項によって、特定農業法人は認定農業者、特定農用地利用規程は農業改善計画とみなされます。したがって、認定農業者としてのメリットも受けることができることになります。
認定農業者についてはこちらをご覧ください。